骨董品ビジネスを始めよう!

「道楽」は崩れた感じがしますが、「趣味」は人生の糧のようなもの。道楽に陥らない、骨董収集の手ほどきと、単なる趣味でなくビジネスに繋げる道筋を紹介していきます。

果師一代

果師一代

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骨董業界にて、ある市で買った品物を右から左へ別の市に持っていって高く売り、差額を稼ぐ人を果師(はたし)と呼びます。

個人のコレクションを他のコレクターに売ったり、市で売ったりして利ざやを稼ぐ人も果師と呼んでいいでしょう。

昔、Sさんという果師の猛者がいて、店を持たず、コレクターや市を渡り歩いては骨董屋でただのお茶を飲み、コレクターを尋ねては大ボラを吹く暮らしをしていたそうです。

彼のやり方は、売り手から物を預かって買い手に届け、その後代金を受け取ってから売り主にお金を渡していました。

売り手から預かった品物を風呂敷に包むところから、Sさんの仕事は始まります。

傷んだ箱に入った傷物の茶碗でも、果師のSさんの風呂敷に包まれると上物に見える、馬子にも衣装というわけです。

売り主は買い手からお金を回収することまでSさんに任せているので、Sさんがどこに住んでいるのか、何者なのか知らないため、トラブルも多かったようです。

「旦那、その白磁壺いいね。かなりしたでしょう」少し甘いコレクターのYさんは、果師としてはベテランのSさんに褒められ、とてもいい気分になりました。

「いくらぐらいでしょうね」白磁壺はYさんのお父さんから引き継いだ物で、2、3の数寄者や骨董屋から譲ってくれというアプローチもありました。

「結構するでしょうな。なんなら私が売ってきてあげてもいいですよ。朝鮮物はこのところウォン高で里帰りしているんだ。大物コレクターもいるから、そっちの方に話してあげてもいい」大らかな物言いだが、漁師が網を引き寄せるような締め付け感を感じたYさんは「これを売る気はない」と押し返し、体勢を立て直しました。

Sさんの目は、白磁壺の横にある小さな盃へと移りました。「李朝の盃、小物だが悪くない」盃は露店で買った物でしたが、Yさんはなんとなく気に入らず、いつか処分したいと考えていた物でした。

「盃は手放す予定はないの? よかったら預かるよ。欲しがっている人がいるんだ」果師のSさんが取り上げると、とてもよい盃に見えてきます。

「いくらくらいで売れるのかな?」「4万はいくでしょう。どうです? こちらは手間賃を2割もらえればいい」「いいよ」2万で買った盃で利益が出ると聞かされ、嬉しくなったYさんでしたが、反面、知り合って間もないSさんに大事な骨董を預けるのは気が進みませんでした。

「心配いらないよ。なんなら今日持ってきた粉引茶碗、預けておこうか」「これは宝城のものですな」当時、李朝の茶碗に興味を持っていたYさんは、たかだか2万円で買った盃のカタに高麗茶碗の逸品といわれる粉引茶碗をおいてゆくSさんが眩しく見えました。

「この盃、4万くらいが相場だが、手数料8000円は売れた時に差し引きますよ。それでいいですね」盃を手放すことは1も2もありません。Yさんの目は粉引茶碗に釘付けです。

「これはいくらだね」「110万だ。道具屋だと4、500万かな。あんたの目、素人にしておくのはもったいないよ。この頃は小物の方がよく動くから、これ借りていくよ。お互い間違いがあったらなんだから、証文を交わしておこう」それぞれ借用書をしたため、交換しました。

SさんがYさんに預けた粉引茶碗は、あるコレクターのところから引っ張ってきた真偽確かでない物で、5万円で買ったのが真相でした。

よくできた写し物というのがSさんの見立てでしたが、それでも自分の金は動かさないのが彼の誇りだそうです。

5日後、「あの盃、売れたよ」Sさんが渡した封筒には、4万円入っていました。

約束の手数料は2割でしたが、Yさんはそのうち1万円札1枚をSさんに渡しました。

Sさんが、棚の上の中国陶磁を取り上げて、こう言いました。

「この染め付けの壺、ここには相応しくないな。他の物が肌の荒い六古窯や朝鮮陶磁だから浮いている。これ、扱わしてくれんか?」「いいよ。それと、盃のカタで預かった粉引茶碗が欲しいんだけど」「壺は60万でもらおう。万歴の染付だから、それくらいの値でさばけるだろう。次来る時は油滴茶碗のいいの持ってくるよ」こんな風に、次々とYさんのコレクションが様変わりしていきました。

骨董コレクターは大概仲間がいません。

1人でにやにや楽しんでいるもので、収集品がおかしくなっても誰も気づきません。

本人が手放すか、代替わりで売りに出される時、骨董屋から「あきまへん。全部偽物ですわ」と言われて判明するのです。

ある日、Yさんの家に友人が久しぶりにやってきました。

Yさんの棚にあるもの全てが偽物とは思えませんが、あまりに名品揃いなのが気にかかりました。

その中に、元染付の馬上盃がありました。

数週間前、ネットに出品されていたのを友人は思い出しました。

値付けは1000円でしたが入札がなく、いつしか消えていた物です。

パソコンで見た小さな窯傷にも見覚えがありました。

「これ、どうしたの?」「果師のSさんが持ってきたんだ。嫌がる彼を説得して、我が家の白磁壺に200万円を添えて取り換えた。これまで扱った物の中でも最高の物だと言っていた」馬上盃の足を握り、目を細めているYさんに、友人はネットでの真実を言えませんでした。

「大事にしなさいよ」と言って、友人は帰っていきました。

数日後、新聞を読んでいたYさんは飛び上がりました。

ソウル市内の住宅街から、白磁の大壺が出土したと、写真入りで紹介されていたからです。

貴重な李朝初期の作で、現在あるのは2、30点だと書かれていました。

Sさんが持っていったのは、それと瓜二つの壺でした。

慌ててSさんに電話をかけるYさんですが、「おかけになった電話番号は現在使われておりません……」思い返せば、大壺を風呂敷に包むSさんはこれまでにない嬉しそうな顔をしていました。

逆に、白磁大壺はどこか悲しそうに見えました。

Yさんが手放してしまった白磁大壺は、その後ソウルのオークションにて高値で落札され、韓国の財閥系オーナーが入手したそうです。

ネットオークションで入手した元染付写しの馬上盃と、一代の名品を交換したSさんは、一体いくら稼いだのでしょう?

オークションのカタログやネットを注意深く見ていると、世の中の出来事が赤裸々に見えてきそうです。

騙されないためのポイント
1.骨董は足で稼ぐ2.独りよがりに陥ってはいけない3.ネット情報はコレクターにとっては死活問題

4.オークションカタログのチェックを怠らない

5.骨董交換によるわらしべ長者はいない


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